相手が自営業やフリーランスの場合、「給料日がないから差し押さえられないのでは」と不安になりますよね。毎月決まった給与が支払われる会社員とは異なり、回収の手続きが少し複雑に感じるかもしれません。
こちらでは、自営業やフリーランスの相手から養育費を回収するための基本的な考え方と、準備すべき事項について解説します。特に、推測ではなく書類に基づいて収入や資産を整理する視点に焦点を当てます。
先に知る結論
自営業やフリーランスの相手から養育費を回収するためには、会社員の場合とは異なる準備が必要です。給与の差押えができないため、預貯金口座や取引先への売掛金(報酬の請求権)を対象とすることが一般的です。
そのためには、確定申告書や課税証明書などの公的な書類に基づいて収入を把握し、口座情報や取引先を特定する準備が求められます。また、裁判所の手続きを利用するためには、債務名義(裁判所や公証役場で作られた、差押えを進めるための正式な書類)をあらかじめ取得しておくことが重要です。
自営業・フリーランスからの回収における課題
自営業やフリーランスの場合、会社員とは異なり、以下のような理由から養育費の回収に向けた準備が複雑になる傾向があります。
まず、給与の差押えができません。会社員であれば、勤務先を第三債務者として給与を差し押さえることができますが、自営業やフリーランスには給与という概念がありません。
次に、収入の把握が複雑です。毎月の収入が変動しやすく、また経費の計上などにより、実際の所得が見えにくい場合があります。
さらに、資産の所在が分散しやすいという特徴があります。事業用の口座と個人の口座が分かれていたり、取引先からの入金が複数の口座に振り込まれたりすることがあります。
これらの理由から、自営業やフリーランスの相手から養育費を回収するためには、事前の準備と正確な情報収集が求められます。
収入と資産を「書類」で整理する重要性
相手の収入や資産を把握する際、重要なのは「推測」ではなく「書類」に基づいて整理することです。「毎月これくらい稼いでいるはずだ」「あの銀行に口座があるに違いない」といった推測だけでは、法的な手続きを進めることは困難です。
確定申告書と課税証明書
自営業やフリーランスの収入を把握するための基本的な書類は、確定申告書と課税証明書です。これらの書類には、事業収入や必要経費、そして最終的な所得金額が記載されています。
確定申告書は、相手が税務署に提出した申告書の控えです。事業の売上や経費の内訳が記載されています。
課税証明書(所得証明書)は、市区町村が発行する証明書で、前年の所得金額や住民税額が記載されています。
これらの書類を入手できれば、相手の公的な所得額を客観的に確認することができます。
預貯金口座の特定
給与の差押えができない場合、預貯金口座の差押えが選択肢となります。しかし、口座を差し押さえるためには、金融機関名と支店名を特定する必要があります。
口座を特定するための手がかりとなる書類には、過去の通帳やキャッシュカードのコピーがあります。同居していた頃の通帳のコピーなどがあれば、口座情報の参考となります。
また、公共料金やクレジットカードの引き落とし口座も重要です。これらの支払いが行われている口座は、現在も使用されている可能性があります。
さらに、事業用の請求書や領収書も確認しましょう。相手が事業で使用している請求書に記載されている振込先口座も、情報源となります。
取引先の特定
自営業やフリーランスの場合、取引先に対する売掛金(報酬の請求権)を差し押さえることも可能です。そのためには、取引先の名称と所在地を特定する必要があります。
取引先を特定するための書類には、契約書や発注書があります。相手が取引先と交わした契約書や発注書の控えです。
また、名刺やパンフレットも手がかりになります。相手の事業に関連する名刺やパンフレットから、主要な取引先を確認できる場合があります。
さらに、ホームページやSNSも確認しましょう。相手が事業用のホームページやSNSで取引先を公開している場合もあります。
2026年の公的情報に基づく回収手続き
養育費の回収手続きについては、2026年4月1日に施行された改正民法等により、いくつかの変更がありました。ここでは、公的情報に基づき、自営業やフリーランスからの回収に関連する手続きを整理します。
債務名義の取得
強制執行(裁判所の手続を使って、預金などから回収を目指す方法)を行うためには、まず「債務名義」を取得する必要があります。債務名義とは、裁判所や公証役場で作られた、差押えを進めるための正式な書類のことです 。
具体的には、確定判決、和解調書、民事調停調書、家事調停調書、家事審判書、執行認諾文言付き公正証書などが債務名義に該当します。
自営業やフリーランスの相手と養育費の取り決めをする際は、単なる口約束や私製の合意書ではなく、執行認諾文言付き公正証書を作成するか、家庭裁判所の調停を利用して調停調書を作成することが重要です。
財産開示手続と第三者からの情報取得手続
相手の財産(口座や取引先など)が分からない場合、裁判所の制度を利用して情報を取得する手続きがあります。
まず、財産開示手続があります。これは、債務者(相手方)を裁判所に呼び出し、自身の財産について陳述させる手続です。
次に、第三者からの情報取得手続があります。これは、裁判所を通じて、金融機関から預貯金口座の情報を、市区町村や日本年金機構等から勤務先の情報を取得する手続です 。
自営業やフリーランスの場合、勤務先の情報取得は該当しませんが、金融機関からの預貯金口座の情報取得は選択肢となります。
なお、これらの手続を利用するためには、原則として債務名義が必要となります。また、第三者からの情報取得手続(預貯金以外)を利用するためには、過去3年以内に財産開示期日が実施されていることなどの要件を満たす必要があります 。勤務先や財産が必ず判明する制度ではありません。
養育費等のワンストップ執行手続
2026年の改正により、「養育費等のワンストップ執行手続」が導入されました。これは、第三者からの情報取得手続と差押えを結び付ける手続です 。
ただし、この手続を利用するためにも、原則として相手方について3年以内に財産開示期日が実施されていることが要件となります 。
法定養育費制度
2026年4月1日以降に離婚または認知があり、養育費の取決めがない場合、主として子を監護する親は、取決めができるまでの暫定的な養育費として「法定養育費」を請求できるようになりました 。
金額は子1人につき月額2万円です 。最終的な適正額を決める制度ではありません。
比較表:会社員と自営業・フリーランスの回収方法の違い
| 項目 | 会社員 | 自営業・フリーランス |
|---|---|---|
| 主な収入源 | 給与 | 事業収入(売上) |
| 収入の把握方法 | 源泉徴収票、給与明細 | 確定申告書、課税証明書 |
| 主な差押え対象 | 給与(勤務先を第三債務者とする) | 預貯金口座、取引先への売掛金 |
| 勤務先の特定 | 第三者からの情報取得手続(市町村等)が選択肢 | 該当なし(自身が事業主のため) |
| 口座の特定 | 第三者からの情報取得手続(金融機関)が選択肢 | 第三者からの情報取得手続(金融機関)が選択肢 |
確認手順と注意点
自営業やフリーランスの相手から養育費を回収するための確認手順は以下の通りです。
まず、債務名義の確認をします。手元に調停調書や執行認諾文言付き公正証書などの債務名義があるか確認します。
次に、収入・資産資料の収集を行います。確定申告書、課税証明書、通帳のコピー、事業用書類などを整理します。
ここで確認として、財産調査の検討をします。情報が不足している場合、財産開示手続や第三者からの情報取得手続の利用を検討します。
事情によって結論が変わるため、迷ったときは確認してください。自営業やフリーランスの収入は変動しやすいため、過去の資料だけでなく、可能な限り最新の情報を集めることが重要です。また、個別の期限や効果は弁護士へ確認してください。
相手の収入や資産の把握に迷った方へ
自営業やフリーランスの相手から養育費を回収するためには、会社員の場合とは異なるアプローチが必要です。給与の差押えができない分、預貯金口座や取引先への売掛金を対象とする必要があり、そのためには「書類」に基づいた情報収集が求められます。
また、2026年の法改正により、財産開示手続や第三者からの情報取得手続、ワンストップ執行手続など、回収に関連する制度が整備されています。これらの制度を活用するためにも、まずは債務名義(公正証書や調停調書など)を取得しておくことが重要です。
手元の書類でどの方法を選べるか、どのような情報が不足しているかを確認したい場合は、一度状況を整理してみることをお勧めします。
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免責事項
こちらは一般的な情報提供であり、個別の事情に対する法的助言ではありません。取決めの内容、離婚・認知の時期、相手方の状況、手元の書類により、利用できる手続は異なります。



